掲載日:2011/3/28(2013/2/14改訂)
組織概要
慶應義塾大学理工学部情報工学科山中研究室は、2004年4月に設立。主にフォトニックネットワークや通信プロトコルなどを中心に、次世代の光バックボーンネットワークの基盤技術から大規模な画像配信のアプリケーションに関して研究を進める。
光ファイバを用いた大容量データ転送技術GMPLSを手軽に導入できるア プライアンスのベースとして、柔軟性を評価しOpenBlocks 600を採用。ネットワーク機器の制御がケーブル接続だけで実現可能となった。
「GMPLS」で大容量光ネットワークの世界へ
光ファイバを用いた大容量データ転送技術へのニーズが昨今高まってきている。従来であれば、データ転送の際には光ファイバの中を流れる「光信号」をルーティングと同時に「電気信号」に置き換える必要があったが、これでは必然的に転送処理が重くなり、大容量データ送信時には速度面で大きなボトルネックが発生していた。この問題を解決するため、光信号を光信号のまま送信できるようにした技術が「GMPLS」である。IPネットワークなどに利用される転送方式(MPLS)を光ファイバ等のネットワーク用に拡張したものであり、この技術により光信号の転送速度は飛躍的に向上、大容量データを実用的な速度で送信できるようになった。またGMPLSは、接続機器や回線を認識することで、最小コスト経路の自動確定や隣接機器の障害情報通知といったネットワーク機器制御も実現できる。GMPLSの実用化に伴い、大容量通信は光ネットワークの時代へと変遷した。
GMPLSアプライアンスのハードウェアにOpenBlocks 600を採用
GMPLS Adapter BOX mini
このGMPLSを手軽に導入できるアプライアンスが、「GMPLS Adapter Box mini」である。本アプライアンスを市販のルータ、スイッチ、光クロスコネクトといったネットワーク機器に接続するだけで、GMPLSによる機器制御を簡単に実現できる。
■ネットワーク図
GMPLS Adapter Box miniを市販のルータ、スイッチ、光クロスコネクトといったネットワーク機器に接続することで、GMPLSによる対象機器の制御を実現。「GNU Zebra」をベースとしたGMPLSソフトウェアを搭載し、シグナリングプロトコル(RSVP GMPLS extension)によるパス設定、ルーティングプロトコル(OSPF GMPLS extension)により収集したとポロ時情報を利用した最小コスト経路計算、リンクマネジメントプロトコル(LMP)による隣接機器のリンク情報の取得やリンク障害情報通知といったネットワーク機器制御が可能になります。
全ての条件を満たしていたOpenBlocks 600を採用
慶應義塾大学 理工学部 情報工学科
山中研究室 理工学研究科特任教授
岡本 聡氏
GMPLS Adapter Box miniの開発者である慶應義塾大学 理工学部 情報工学科 山中研究室 先端科学技術研究センター 教授 岡本聡氏(以下岡本氏)に話を伺うことができた。「元々、GMPLS技術の普及のためにアプライアンス化の開発を始めました。ソフトウェア(GNU ZebraをベースとしたGMPLSソフトウェア)は元々開発済みだったため、最適なハードウェアを選定する必要がありました。既存のネッワーク機器に接続すれば導入でき、さらにはネットワーク機器自体の中にも組込むことが可能な小さな筐体ということが最も理想でした。」と岡本氏は語る。
以前にぷらっとホームのOpenMicroServer(2005年11月発売)の利用経験があった岡本氏は、その経験からOpenBlocksシリーズの最新モデルでのアプライアンス化を最初に考えたという。
「以前使っていたOpenMicroServerがファンレスの堅牢設計でサイズも小型だったため、外付けはもちろん組込みでの設置も実現できると考え、すぐにOpenBlocksシリーズの最新モデルを調べました。最新モデルのOpenBlocks 600はメモリーやCPUの性能も格段に上がっていていましたし、さらに手のひらサイズと小型化されていたのですぐに採用を決めました。」
「加えて、イーサポートが2つとシリアルポートが搭載されている点も良かった。これによりGMPLSで制御できる機器の幅が大きく広がりました。サイズ、スペック、インタフェースと、ハードウェア性能は全て期待以上で、大変満足しています。」
IntelプラットフォームからPowerPCプラットフォームまで
「今回のGMPLSソフトウェアは元々Intelプラットフォーム上で動かしていたものだったので、PowerPCプラットフォームのOpenBlocks 600で動作させるために、ソフトウェアを書き換えエンディアンフリー化※する必要がありました。
書き換え作業にはあらかじめぷらっとホームから提供されるセルフ開発環境を用い、結果非常にうまくいっています。この改良によって、環境に依存せずどんなCPUでも利用可能なソフトウェアを開発することができました。」
セルフ開発環境のほか、Webで提供される豊富な技術情報やファームウェアも開発に大いに役立ち、開発中どんな問題に遭遇しても作業が頓挫することはなかったという。
自由な導入形体でGMPLSの更なる普及を
最後に岡本氏は次のように語った。
「現在GMPLS Adapter Box miniに搭載されているソフトウェアは世界展開を図っており、ヨーロッパの研究機関や中国の大学でも使用されている例もあります。今回のOpenBlocks 600を採用した小型アプライアンス化で、外付けでも組込みでもGMPLSの導入が可能になりましたので、国内での需要がさらに拡がればと思っています。既存のネットワーク機器に挿せばすぐに使用が可能になるので、様々な研究機関や通信キャリア、さらにはデータセンターのイーサネットの制御等で使っていただきたいですね。」
なお、岡本氏は2012年6月リリースのOpenBlocks AX3でも動作確認を済ませており、ARMへのポーティングにおいては、エンディアンを意識する必要はなかったとのことである。
※ | 2バイト以上の数値データの記録・転送を行う順番を、エンディアンという。IntelプラットフォームCPUではリトルエンディアン(下位バイトから順に数値データを並べる方式)、PowerPCプラットフォームCPU上のLunuxではビッグエンディアン(上位バイトから順に数値データを並べる方式)を採用している。 例えば 01 23 45 67 89 という五つのデータがレジスタに並んでいる場合、それをメモリーに格納する際のエンディアン毎の違いは次のようになる。 リトルエンディアン方式: 89 67 45 23 01 ビッグエンディアン方式: 01 23 45 67 89 これらリトルエンディアン方式とビッグエンディアン方式のいずれのプラットフォームでも動作するようにソフトウェアを書き換えることをエンディアンフリー化と呼ぶ。 |
特長
■市販のルータ、スイッチ、光クロスコネクトといったネッワーク機器
に接続することで、GMPLSによる機器の制御が可能
■手のひらサイズのコンパクトなアダプタボックス