掲載日:2012/10/11
組織概要
兵庫県西宮市に本社。1948年に世界で初めて魚群探知機の実用化に成功、以来船舶機器分野で世界83カ国に販売拠点を有し数々の世界初・日本初製品を提供し続ける、世界規模の船舶機器総合メーカー。船舶レーダーでは世界シェアの40%を占め、事業分野は海底から海上、陸上、航空、宇宙までも及ぶ。
導入前の課題 | 導入効果 | |
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設置環境の充実していない船室(ブリッジ)での運用が必須 | → | 手のひらサイズのコンパクト筐体、通常のAC電源で稼働と、柔軟な設置が可能に |
船上の機器監視と陸上へのping送信とで2つのLANポートが必須 | → | 1000Base-Tを2ポート、過不足のないインターフェース環境を実装 |
船上通信回線設備は一度設置されると数年の長期にわたり使われるため、堅牢性が必須 | → | ファンレス・HDDレスの回転部品なし設計、開口部なしの堅牢設計、高温環境にも耐える優れた放熱設計で高信頼な運用継続性を実現 |
様々な製品もしくは木材、鉱石、穀物といった原材料を運搬するため、世界中の海洋上では数多くの商船が絶え間なく行き来している。あらゆる国もしくは大陸を結ぶ流通網となるこの洋上を航海する商船の航行時間は数日から数ヶ月にも及ぶ。
航行中の気象情報の迅速な把握、効率的なルートプランニング、本社や港湾当局との業務連絡、さらには船員の家族との連絡やその他福利厚生といった、あらゆる点で不可欠となる役割を担っているのが、舶用(はくよう)衛星通信回線と呼ばれるインフラサービスである。
日本郵船の全コンテナ船で採用の衛星通信回線システムを提供する古野電気
古野電気は本年四月、この舶用衛星通信回線システムを日本郵船株式会社(東京都千代田区、工藤泰三社長)が運航するコンテナ船の全船へ導入する「NYK SatComプロジェクト」を推進し、また今後の日本郵船「最適経済運航プロジェクト」内の船陸間通信インフラ構築についてトータルプロバイダーとして全面的に支援を行うことを発表した。
古野電気がこのプロジェクトで日本郵船に提供する機器やサービスは、衛星通信端末の供給や装備・保守、衛星通信回線の供給、船上ネットワークの設計・装備・保守など多岐にわたり、今後は自動車運搬船やバルカー、タンカー、LNG船などの他船種にも順次導入される予定だという。
そして、このプロジェクトにおいて古野電気のサービス提供における信頼性を下支えする重要な役割を担っているのがOpenBlocks 600である。現在は100隻程度の運行中のコンテナ船で導入されたVSATと呼ばれる舶用衛星通信回線を用いたシステム内でOpenBlocks 600が稼働している。
衛星通信の優れた運用継続性を下支えするOpenBlocks
衛星を介し、航行中の商船と陸上拠点との間での広域ブロードバンド通信を実現する衛星通信回線技術がVSATである。古野電気はこのVSAT回線の、きわめて信頼性高く、しかもごくシンプルな構成での導入を実現する。
回線(VSAT)自体の構成としては、まず、縦横60cm程度のドーム型のアンテナ(Kuバンドアンテナ)を船上に設置し、アンテナ制御ユニットおよびVSATモデムや衛星ルータと呼ばれる機器を介して船内のネットワーク(ルータ)と接続する。これがVSAT衛星とデータの送受信を行う船上の局(船上地球局)として機能する。衛星ルータにはオプションとして、VoIPスイッチを介しての通常の固定電話を接続することも可能だ。
参考:VSATシステム概念図(提供:古野電気)
船上地球局からVSAT衛星を介して送受信されるデータは、陸上で巨大なアンテナとともに稼働するHUB局と呼ばれる設備を介して、通常の固定電話や携帯電話・FAXといった電話回線網、あるいはインターネット・VPN・VoIPといったIPベースネットワークでやりとりされる。船上地球局に対し、こうした電話回線網やIPネットワーク側は陸上地球局と呼ばれる。
アンテナその他の機器は一つの商船に一つでよく、限られた船内の設置スペースを圧迫することはない。またきわめて信頼性の高い運用継続性を実現しているため、長期にわたる遠洋航海時のトラブル発生による多大なストレスを最大限抑制することが可能となる。
VSATを用いたこの舶用衛星通信回線サービスの優れて安定した運用性を支えるのが、構成機器の信頼性と、OpenBlocks 600によって実現する堅牢・柔軟・コンパクトな監視管理システムである。
「必須の課題をすべて満たしたサーバー」
古野電気 船用機器事業部
衛星通信部 開発課
田村進司氏
OpenBlocks 600(右上)とVSATシステム構成機器
「これらの舶用衛星通信回線サービスでは自社で回線の監視管理を行っていますが、それに使っているのがOpenBlocks 600です。」(古野電気 船用機器事業部 衛星通信部 開発課 田村進司氏、以下同)
自社で監視管理設備をまかなううえで、スペースの限られた船室内にも設置できるコンパクトさ、通信回線の安定運用を支える堅牢稼働、必要なスペックとコスト抑制の両立、こうしたところが必須の課題であった、と田村氏は語る。
「当初は国内他社製PCや小型サーバー、あとは海外の製品も検討しましたが、PCなどはオーバースペックかつ高コスト、海外製品では開発がやりにくく部材調達対応などもスピーディではないなどの不満がありました。一から自社で作るという選択肢も一応ありますが、当社が持つ舶用機器のノウハウで作るとなるとオーバークオリティなうえ高コスト化が避けられません。」
洋上の通信回線サービスとはいえ、商船のブリッジ内に設置するため、潮風などへの配慮は特に必要なかった。むしろ環境としては陸上のビル内と変わらず、電源も通常のAC電源である。とはいえ充実した専用設置設備は存在しないため、柔軟な設置が可能なものである必要がある。またこうした舶用通信回線設備は一度入れると数年以上の長期にわたって運用が続けられる。こうした条件下でコンパクトさと堅牢性は必須であった。また機器監視(VSATモデムのステータス監視)と陸上へのping送信(VPN経由)とで2つのLANポートが必要であるという。そんな中で出会ったのがOpenBlocks 600であった。
「OpenBlocks 600は、二年ほど前、販社に『これはいいですよ』勧められたのが最初です。課題のLANポート2つ、コンパクトさ、そしてコスト抑制効果は既にクリアしていて、あとは堅牢性。印象として堅牢そうだなとは思っていたのですが、そこはトライアルから判断することにしました。」
そうして開発に着手した田村氏だが「開発は全然手間がかからなかった」という。
「(初期開発にかかった時間は)小一時間くらい。一度リモートで接続する方法さえつくれば、あとは船に乗せて必要な機能を随時足してゆく、といった形で導入を進められ、非常にスマートでした。故障などもなく、ぷらっとホームのWebサイトで提供されている技術情報を少しだけ参照したくらいのものです。」
「それで、これしかないやと。本当に仕様が要求にぴったりはまっていたのです。」
OpenBlocks 600では、debian上でPerlなどによるステータス取得のためのスクリプトが組まれ、VPNはOpenVPNでまかなわれる。スムーズなトライアルののち間もなく、OpenBlocks 600を採用したVSATシステムは本稼働に入る。開発着手からトライアル運用のサービスインまではなんとわずか一ヶ月であった。
VSATシステム ネットワーク構成図
足りないところも余計なところもない、最適な製品
この舶用衛星通信回線の機器導入は基本的に、結線済み機器をラックごと船に搬入し、船内で接続を行うだけと、非常にシンプルだ。回線の基本性能に加え、このスムーズな導入性と高信頼な運用性も相まって、古野電気の衛星通信回線サービスは日本郵船の全コンテナ船での採用といった展開を見せる。サービスの中核をとなる監視管理を担っているOpenBlocks 600の運用状況についても田村氏は非常に満足しており、当初の課題をすべて満たすものであったと語る。
「以前は通信回線の提供者でなければ入手できなかった監視管理系の情報を、今では自分で入手してコントロールできるようになった。遠隔から変更が利くようになったし、それをこの取り回しのいい構成で運用できるになったというのは、きわめて大きな価値ですね。」
田村氏は、現在導入済みのVSATシステムに加え、別の通信方式を用いた舶用衛星通信システム製品の方でもOpenBlocksシリーズの採用を検討しており、ARM採用の最新モデルであるOpenBlocks AX3およびOpenBlocks A6が現在評価中だという。
「正直に言うと、 周囲の評価も含めて、部材をいろいろ検討していた当初から『これだな』という思いはありました。足りないところも余計なところもない、最適な製品だと思っています。」